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雑記とか、小話とか。小連載とか。
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 様々な花を組み合わせて、ひとつのブーケを作る。ドレスとその人自身と、その人の好みと。このバランスが難しい。気に入ったものにならなくていらだった。
 そして更に、自分の仕事が終わったのか、まあまさかそんなはずはないだろうけれども単なる嫌味か。
 じっとこちらを見つめてくる、黒い瞳。視線で何、と問えば、首を横に振られた。珍しい。
 人間、慣れないことにつきあたると気になるもので。珍しいことをされると、珍しいことをしてみたくなったりして。
「私には言えないようなこと?」
 なんて意地悪を言ってみれば、案の定慌てたように口が動き出した。早口で小声なので、いまいち何を言っているかまでは聞き取れないけれど。
 というよりそれって、言い訳?
 私の不信感たっぷりの目に気付いたのか、彼は大きく息を吸い込んだ。
 ゆっくりと吐き出して。彼の視線が、まっすぐに私に向かってきた。実は、私は彼のこういう目に弱い。絶対に言わないし、悟らせるつもりはないけれど。
「お、れで、いいのかなって。ちょっと、思った」
 戸惑いは一瞬。そして、それは今さらするような話ではなかった。だって、私と彼は付き合ってもう半年もたつ。
「本気なんだけど」
 まあ、そうだろう。そうでなければ今さら、こんな話なんてしない。
 なんて思いつつも、本当は私も少しだけ、その言葉に驚いていた。
「じゃあ、あんたこそ私でいいわけ?」
「あのな。当たり前だろ?」
 至極真面目な顔で言われるけれど、なんだかもう、あきれるしかない。もちろん、彼の気持ちを疑っているわけではない。
 だけど、彼は当たり前に自分の気持ちを信じてみせるけれど、本当は、本当の気持ちなんて、一体誰にわかるだろう。もしかしたら只の勘違いかもしれないのに。
 それに当たり前なんて、簡単に覆ってしまうものだ。半年前には「好き」が当たり前だったかもしれないけれど、今はそうじゃないのかもしれない。
 もしかして、彼はそれを恐れたのだろうか。
「お前がいいから、お前に好きな人がいたってずっと想ってたんだ」
 そう、それは知っている。彼と付き合う前、私には好きな人がいた。片思いだったけれど、それでもやっぱり好きだった。彼はそれをわかった上で、私に好きだと言ってきた。そのくせ、自分がそんなだからと、私にあの人のことを諦めろなんてことは絶対に言わなかったし、むしろ応援された。
 いつしかそれが苦痛になったのは私の方。もうやめてほしいと、いつしか変わってしまった私の気持ちを彼に伝えると、彼は本当に驚いて、そして泣いた。その時のことを彼は忘れろというけれど、私には忘れられない。
 気持ちなんて、そんな風に変わってしまうものなのだ。何がきっかけでどう転ぶかわからない。
 あの人から簡単に彼に乗り換えて見せた私は、彼にとってみれば不誠実な女なのかもしれない。そう思うとやはり苦しいから、私は彼が好きなのだと思う、確かに。
「だけどお前は、俺のこと信じてないだろう?」
 胸が痛んだ。どきりだったのかずきりだったのか、いまいちよくわからないけれど。
「いつか俺が自分から離れていくんじゃないかって、お前、いつも思ってるだろう」
 思っていない、とは言えない。認めたくないから、多分それは真実。
 でも、だって。私は心が簡単に変わってしまうことを知っている。それこそ身をもって。いつか終わる関係だとは思わないけれど、いつまでも続くような関係ではないと思っている。
 だってそれこそ私は、どうして彼が私を選んだのか、いまだによくわからないのだから。多分一生わからないと思う。
 私だって彼のどこに惹かれたのかと聞かれたら困る。私を好きでいてくれたから、だけど多分、彼に別れを告げられたらその瞬間に嫌いになるなんてことはないだろう。あれは結局きっかけでしかなかったのだ。
 彼がふっと息を吐いた。
「まあ、いいか」
 え?
「結局、俺はお前が好きなんだし。お前だって同じ空気吸いたくもない人間と一緒にいたいとは思わないだろうし。今お前がここにいてくれるんなら、それでいいか」
 え、ちょっと、自己完結? 要するに言いたかっただけ? 何よそれ。
「俺じゃだめだって言われても、多分もう、簡単には手放せないし」
 そう言って、彼は笑った。
「それに、そんなこと言われたらさすがにへこむしな」
 そんなこと言ったら、へこむとかへこまないとかの前に、別れの危機ではないの?
 バカらしくて言葉にもならない。だけど、少しだけ。嬉しかったりもする。
「あのねえ」
「ごめんな」
 言葉が遮られた。少しいらだちを感じたけれど、あまりに真剣な顔をしていたから黙って聞いてあげることにした。
「初めからこう言えばよかったんだ」
 彼が笑った。
「俺を選んでくれてありがとう」
 そして、キスされた。
 珍しいことはするものじゃない。だって結局私たちは、案外いいバランスで成り立っているのだから。信じる彼と信じない私と。あまりに違いすぎるから、多分私たちはうまくいっているんだと思う。
 作りかけのブーケが、床に落ちて散らばった。ああ、作り直しかな。まあ、あんまり気にいってなかったし、まあいいか。



花の都で十五題 「02. ちょうどいいんだよ」
Kiss To Cry

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 大地を踏む足音。楽しげな笑い声。隣をいくつもの頭が通り過ぎていく。子どもは元気だ。溜息、ではなくて苦笑する。
「やれやれ」
 子どもは、元気だ。
 しかしまあ、すべてがそうであるというわけではない。少なくとも自分は外で遊ぶよりも中で本でも読んでいるほうが好きだった。人付き合いが得意というわけでもなかったし。
 外で元気に遊ぶ子ども、というものはあまり縁のないものだったはずなのに。
 お目付役が離れるわけにもいかないので、かといって走るだけの元気、もとい気力もあるわけではなく、子どもたちの後をゆっくりと歩いていた。
 ぱしん、と。私の手をとる者がいた。
「せんせい」
 ふわふわと波打つ金髪が、光に輝く。薔薇色の頬。深い海のような碧色が、不安げに私を見上げていた。子どもたちの中でも一番小柄でおとなしい少女。
「ナティアナ」
 名前を呼ぶと、表情がぱあっと明るくなる。
「どうしたの?」
 普通にしていると、自分ではそんなつもりもないのに不愛想で怒っているようで怖い、らしいので、できるだけ表情を柔らかくして聞いてみる。いつもはあの輪の中で、控え目に笑っているのに。
「あのね、せんせいは、いつもひとりでしょう?」
 笑って、言われても。いや、悪気がないことはわかるのだけれども、反応に困る。
 というより、特にそういうつもりはないのだが。確かに他の教師に一線引いているところはあるが、まさか子どもにそれがわかるということもあるまい。
「だからね、今日はいっしょに遊びましょう?」
 一考して。ああ、こういう時か、と思う。
 確かに、他の教師がこうしてお目付役をやるときは、どちらかというと参加しているような気がする。
「リジェラがうん、って言うわけないじゃん」
「そうそう、ほらぁ、困ってるー」
 いつの間にやら他の子どもたちまで私たちの周りに集まってきていた。親鳥に餌を強請る雛みたいだ。自分の発想に目眩がする。
「そんなことないもんっ!」
 ねっ、と見上げられる。これはもう、同意するしかない。頷くと、ナティアナは嬉しそうに笑った。
 神話や伝承の研究をして数年。知人の頼みで貴族の子どもたちが通う学校で教師を初めて一年足らず。
 生身の人間は苦手なのだが。子どもなんてもってのほかで、間違って潰してしまいそうで怖い。……別に私が大柄だとかそういう話ではない。
「行こうっ」
 小さな手に、手をひかれる。案外強い力だった。他の子どもたちも押したり引いたり、遠慮がない。様々なところに違う大きさの力がかかってうまく走れない。ああ、本当に潰してしまいそうだ。
 自分で走るとも言えないまま、されるがままの私。まあ、元々押しに弱いのでこうなっているのだから、仕方がないと言えばそうなのだが。
「うわっ」
 子どものうちのひとりが、転びかけたらしい。私が慌てて振り返るも、本人は気にも留めず走り続けている。周りの子たちもからかって笑っている。
 しかし私は見た。校舎の中のとある窓。知人が満足そうに笑っていた。
「元凶はお前かっ」
 思わず呟いて子どもたちがいることを思い出して青くなったが、あまりに声が低すぎてか、聞こえなかったようだ。何か言った、などと言って不思議そうにしている。
 いや、使えるかもしれない。
「誰が、言いだしたの?」
「えー?」
 ナティアナはふあふあ笑っている。とぼけているな、と確信を強める。考えるまでもなく、子どもたちの行動はあまりに唐突だった。まあ、糸を引いている人物は十中八九当たっているだろう。
「オルスティンだよっ」
「あー、内緒って言われたのにぃ」
 とある男の子が口を滑らせて、女の子たちに咎められている。うん、やっぱりあいつか。証言は得た。
「大丈夫だよ、内緒にしておくから」
 喧嘩になってもいけないし、笑ってそういうと、わぁっと一気に場が盛り上がる。なんだ?
「リジェラ、笑うとかわいいねぇ」
 ……はい?
 かわいい、かわいい、と連呼される。だから私は親鳥でもないしかわいいは餌の名前じゃない。……だめだ、逃避してどうする。
 しかしなだめ方がわからない。どうしたものかと思っていると、笑顔のナティアナに手をひかれた。
 なんだろう、ああ、もうなんでもいいか。
「遊ぶんじゃなかったのか?」
 嬉しそうな歓声。うん、雛どもは素直でいいな。
 一度だけ振り返る。あの窓にもうあいつの姿はない。ふわりと目の前を白い何かが落ちていった。
 溜息。何を言ったって、あいつには通じないんだろう。目を細めていると、子どもたちに体当たりされた。地味に痛い。
「よそ見しちゃだめっ」
「はいはい」
 こういうのも、悪くないのかもしれない。少し私らしくないことを思ってみた。


花の都で十五題 「01. 眩しすぎる花びら、ひとつ。」
Kiss To Cry
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